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「目に見えない普通」に思いをはせる
2013/05/22
うつを持っている方々は、よく「早く普通になりたい」、「いつになったら普通の暮らしができるのか」と言います。「その普通とはどういうことですか?」と聞くと、「他の人たちが普通にやっているように、仕事をしたり、家事をしたりです。特別なことを考えているわけじゃありません」という言葉が返って来ます。
そんな時に、私が思い出すのは、昔、クライアントさんが足を骨折してしばらく入院し、久しぶりに会った時に言っていた、「世の中にはこういう世界があるんですね」という言葉です。
初めて入院を経験した彼女には、よほど新鮮で意外だったのでしょう。「一日、仕事も家事もせずに養生している人たちが、こんなにたくさんいるんだなと思うと、これでいいんだなと力が抜けました」ともつけ加えていました。
私たちは「普通」というと、つい「目に見える普通」を想像してしまいます。
出かけた時に、お店のスタッフや買い物に来ている人々。物を運んだり、街を行きかう人々。職場では会議や相談をしたり、事務や受付をしている人たち。
確かに、皆そこそこ明るく元気に動き回っています。ボーっとしていたり、具合の悪そうにしている人は、ほとんど見かけません。
だから、世の中の大半の人が、こんなふうに動き回っていて、それが「普通」なんだと思ってしまいます。
けれど、彼女が気づいたように、世の中には「目に見えない普通」もたくさんあるのです。
病院や施設だけでなく、自宅で療養している人も数多くいますし、仕事や家事をしていて具合が悪くなった人たちも、周りから見えない休憩室や家に帰って休んでいます。
そう考えると、今うつで療養しながら、自分のペースで暮らしている姿は、もうすでに「普通」と言ってもいいのかもしれません。
また、「調子のいい時には、もう病気が治ったのかと思うくらい普通に過ごせるんです」という言葉も、うつを持っている方々からよく聞かれます。
調子のいい時には「目に見える普通」で、具合の悪い時には「目に見えない普通」ということなのでしょう。
あとは、そのバランスを少しずつ変えていくだけ。
そう思うと、これからの回復の道すじが見えやすくなるのではないでしょうか。
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